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大阪地方裁判所 昭和59年(ワ)7854号 判決

原告

増田法忠

右訴訟代理人弁護士

渡辺和恵

被告

日置寅吉

右訴訟代理人弁護士

梅本弘

片井輝夫

右訴訟復代理人弁護士

川村哲二

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

本件につき、当裁判所が昭和五九年一二月六日にした強制執行停止決定(昭和五九年(モ)第一四三五六号)は、これを取り消す。

前項につき、かりに執行することができる。

事実

第一  申立

一  原告

1  被告の原告に対する大阪簡易裁判所昭和五八年(イ)第八三号土地明渡和解事件の和解調書に基づく強制執行を許さない。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文第一、二項同旨

第二  主張

一  原告の請求原因

1  原被告間に、債務名義として、被告を申立人、原告を相手方とする大阪簡易裁判所昭和五八年(イ)第八三号土地明渡事件について同年三月一日に成立した即決和解の和解調書が存在する。

右和解調書には、次の趣旨が記載されている。

(1) 被告所有の別紙物件目録(一)記載の土地(以下、本件土地という。)を被告から原告に賃貸し、その賃貸借期間を昭和五六年一一月一日から昭和五九年一〇月末日までの三年間とする。

(2) 右期間経過時において被告が本件土地を自ら使用する必要がないときは、原告に対し、さらに賃貸を継続することを認める。

(3) 被告が自ら本件土地を使用する必要があつて賃貸を継続しない場合は、期間満了の六か月前までに原告に対してその旨を通知する。

(4) 原被告は、この賃貸借が一時使用のためのものであることを確認する。

被告は、右(3)に基づいて、原告に対し、昭和五九年四月二四日ごろ到達の書面により、同年一〇月末日限り本件土地を明渡すよう通知した。

2  しかし、原被告間の本件土地賃貸借契約は、借地法九条所定の一時使用を目的としたものに該当せず、かつそもそも原被告間に民訴法三五六条一項所定の争いも存在しなかつた。その事情は、3以下のとおりである。したがつて、昭和五九年一〇月末日を経過しても、被告は、右和解調書に基づき、原告に対して本件土地明渡の強制執行をすることはできない。

3  被告は、昭和五〇年一〇月一三日、原告に対し、本件土地を賃貸したが、その賃貸借契約は、一時使用を目的としたものではなく、借地法の適用をうけるものである。

すなわち、右賃貸借契約は、被告において原告に対し、本件土地を自動車修理作業場兼自動車置場として使用する目的で、賃料月額五万円、賃貸借の始期同年一一月一日、期間一年、ただし一年ごとに更新する、旨の約により賃貸する、というものであり、そして、右契約は原告が被告に「土地一時使用願」と題する書面を差入れる形式によつてこれを締結したものであるが、このような形式で契約を締結し、かつ賃貸期間を一年としたのは、被告が、本件土地賃貸を被告の代理人の立場で仲介した花里不動産こと児玉輝夫と相談して、借地法を脱法して原告の本件土地の継続使用を将来被告において一方法に破棄することができるような外観をととのえようとしたからにすぎないのであつて、当時、原告はもちろん、被告も、賃貸期間を一年といつた短期に限る意思はまつたくなく、かつ短期間に限定して賃貸借を存続させることを相当とする客観的、合理的な理由もまつたく存在しなかつた。

すなわち、

(1) 被告は、本件土地を含む苅田二丁目四八番一の土地を、被告が取締役、長男日置功が代表取締役である株式会社日置製作所(以下、日置製作所という。)の事業所として使用していたが、昭和四三年ごろ日置製作所が操業を停止し(同年六月二六日解散の登記)、その後は、一年余り右土地を誰も使用しないままに放置した。

被告は、昭和四四年九月に高千穂建設に、次いで昭和四七年四月に奥井レツカーに、右土地を一時使用の目的で賃貸し、奥井レツカーが昭和五〇年一〇月まで右土地を使用したが、両者とも、右土地を、柱とトタン屋根を設けた程度のほとんど更地に近い状態のままで自動車置場として使用し、いずれも両者すなわち賃借人の側の事情により契約を終了した。

(2) 右のように被告は、日置製作所の事業の失敗とその後の賃借人の事情により右土地利用が思うにまかせない状態であつたところ、昭和五〇年一〇月にこうした不安定な土地利用を断念し、原告ほか三名に継続使用を目的とした賃貸をするにいたつた。

原告の賃借した本件土地についてみると、原告は、昭和五一年二月、被告の了解を得て、本件土地上に別紙物件目録(二)記載の建物(以下、本件建物という。)を建築したが、本件建物は、鉄柱を地上のコンクリートに埋め込み、かつ柱、壁等がボルト締めだけでなく熔接によつても接合された本格的建物であり、また自動車整備機器及び検査機器も埋め込んでおり、これらによつて、原告が本件土地を地上に右の本件建物等を所有して原告の自動車修理業整備業の営業のために永続的に使用することが客観的に明らかになつたものである。

被告は、原告の右本格的な本件建物の建築、右機器の埋込みにつき異議をのべなかつたばかりか、原告が自動車修理業を行うのに必要な陸運局の認証を受けるについて、当時その条件とされた近隣居住者の承諾を得るために被告の次男日置勝の妻を協力させ、被告自らもまたこれに協力しており、原告の継続的な営業のための本件土地使用を積極的に承認したのである。

そして、被告には、一年といつた短期間経過後に本件土地を使用する計画はまつたくなかつた。

4  その後、原告は、昭和五一年、同五二年の各一〇月三一日付で、被告に対して土地一時使用願と同内容の念書を差入れているが、各書面とも各前年からの一年の期間をかなり経過したのちに児玉がなんらの説明もなしに持参したものに原告が単に署名押印しただけのものであつて、各書面作成時に各前年からの賃貸借契約がそのまま継続していることは被告も当然視していたものであり、そして、各書面にも契約の更新条項が記載されていたのであるから、本件土地賃貸借契約は、一時使用を目的としたものではないことが、明らかであるといえる。

5  次いで、昭和五三年一二月一八日に大阪簡易裁判所において、原被告間に本件土地賃貸借に関する第一回目の即決和解が成立したが、(イ) 即決和解において原告の代理人となつた布施裕弁護士は、実際には被告の代理人であつて(原告は、白地の委任状を児玉に渡しただけであり、同弁護士を代理人として選任する意思はなく、和解調書を受領するまで同弁護士の名すら知らなかつた。)、同弁護士によつて成立した和解は実質的に双方代理によるものであり、(ロ) 原被告間に即決和解の前提となる争いがなく、かつ(ハ) 和解中の賃貸期間を同年一一月一日から三年とし、一時使用の賃貸借であることを確認する旨の条項があるものの、従来同様原被告ともに賃貸期間を短期に限定する意思がなく、また被告において三年後に本件土地を使用する具体的計画もまつたくなく(当時、被告は、原告に賃料増額を申し入れ、その承諾を得るについて、契約継続に関して原告に有利に契約条件を変更する趣旨で賃貸期間を一年から三年に延長する形式の契約書を取り交わしたい旨申し出て、原告に即決和解に応じさせたものであり、一時使用目的の賃貸借契約とする意図は原被告双方ともになかつた。)、右即決和解は無効であり、従来からの長期賃貸借契約がそのまま継続しただけである。

それゆえ、和解調書記載の三年の期間が満了したのちの昭和五六年一一月一日以降も、賃料増額がされただけで、賃貸借に関して改めて書面を作成することもなく契約を継続し、被告が原告に本件土地明渡を求めることもなかつた。その後被告の長男日置功が原告に契約書の書替えを求めたが、持参した契約案に約定期間経過時において本件土地を明渡す旨の条項があつたため、原告は契約書の作成を拒否した。

6  その後約一年を経過した昭和五七年一月ごろ、被告が賃料増額請求をした機会に、被告側からの求めにより改めて本件土地賃貸借の形式をととのえることになり、前記1掲記の(第二回目の)即決和解をすることになり、原告は、原告と同様に同和解の当事者(相手方)とされた前記四八番一の土地の一部の賃借人である長門千恵松の知り合いの木村吉治弁護士を代理人に委任して右和解に応じたが、同弁護士は、被告の本件土地を含む四八番一の土地利用計画を確認せず、かつ第一回目の即決和解が無効であるのにこれを有効と解して、被告と交渉し、右土地賃貸借を、各期間三年、一時使用目的のものとする即決和解を成立させたのである。しかし、従来と事情は変わらず、被告に具体的な土地利用計画はまつたくなく(本訴係属中に被告はモータープール計画見積書を作成したが、出鱈目なものである。)、原告に短期間経過後に本件土地を明渡す意思はまつたくなく(前記のとおり、期限経過時の明渡条項を含む契約書の作成を拒否している。)、被告も、ごく最近に意思を変更したようであるが、従来は原告に対して本件土地明渡を求める意思のないことを明言していたものであつて、第二回目の即決和解時にも一時使用目的の合意が存在することを是認させるような客観的、合理的事情はなんらなく、少なくとも右即時和解の一時使用目的の条項は無効であるから、同条項をもとにした同和解調書の執行力は当然排除されるべきである。

7  そこで、原告は、被告の原告に対する右和解調書に基づく強制執行を不許とすることを求める。

二  被告の答弁及び主張

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の主張は争う。

3  同3のうち、昭和五〇年一〇月一三日、原被告間で、本件土地につき、自動車修理作業場兼自動車置場として使用する目的で、賃料月額五万円、賃貸期間同年一一月一日から一年間(ただし、更新することもある。)の約による賃貸借契約が締結されたこと、右契約が原告から被告に土地一時使用額を差入れる形式で締結されたこと、本件土地を含む四八番一の土地を被告が取締役、長男日置功が代表取締役である日置製作所が使用してきたこと、時期は別として日置製作所が業績不振となつて操業を停止したこと、原告が昭和五一年二月に本件土地上に本件建物を建築し、被告がこれに了解を与えたこと、原告の営業開始につき被告側が協力したこと(ただし、陸運局の認証の点は不知)は、いずれも認める。その余の事実は否認する。

4  同4のうち、原告主張の時期に原告から被告に土地一時使用願と同内容の念書が差入れられたことは認め、その余の事実は否認する。

5  同5のうち、原告主張の日に原被告間に即決和解が成立したこと、即決和解において布施裕弁護士が原告の代理人となり、同和解を成立させたこと、同和解中に賃貸期間を昭和五三年一一月一日から三年とし、一時使用の賃貸借であることを確認する旨の条項が含まれていること、右三年の期間満了後の昭和五六年一一月一日以降も賃貸借が継続されたこと、同日以降賃料が増額されたことは、認める。その余の事実は否認する。

6  同6のうち、昭和五七年一一月ごろの被告側からの求めにより請求原因1掲記の即決和解をすることになつたこと、原告が他の四八番一の土地の賃借人とともに木村吉治弁護士を代理人として委任し、同弁護士の関与のもとに、右土地賃貸借を、各期間三年、一時使用目的のものとする即決和解が成立したことは、認める。その余の事実は否認する。

7  原被告間の本件土地賃貸借契約は、最初昭和五〇年一〇月一三日に締結され、その後数回更新されたが、最初も、その後の更新のさいも、終始、一時使用目的のものとして合意された。それが原被告の真意に基づくものであり、かつ被告に原告のいうような脱法的動機のないことは、次の事情によつて明らかである。

(1) 被告は、日置製作所が休業状態となつたのちも、将来の事業再開を企図し、かりにそれが実現できなくても、四八番一の土地全体を一体として利用することを計画し、それらが具体化するまでは遊休地として放置しておく考えであつた。ところが、原告らが被告ないし功の事業再開までに限つて右土地を賃借したい旨を懇請してきたため、被告は、いずれも一時使用目的の賃貸借であることについて確約を得たうえで、原告らに右土地の各一部ずつを賃貸した。

(2) 被告が原告に本件土地を賃貸するさいも、賃貸を仲介した児玉が、被告には長期に賃貸する意思がないことを原告に対して十分説明してその納得を得たうえで、土地一時使用願に原告の署名押印を得た。

(3) 右土地一時使用願、それと同内容の念書、即決和解調書には、いずれも、本件土地賃貸借が一時使用目的のものであることを明示した条項が存在し、原告は、その条項を十分知りながら、これに異議をのべたことがない。

(4) 昭和五〇年一〇月の契約締結当初、契約には建物所有目的の約定はなかつた。被告は、原告の本件建物建築を了解したが、仮設工作物を設置したいとの原告の要望を好意的に認めただけのことである。実際に、本件建物は、床は土間のままであり、周囲に地中に埋め込んだ柱を配して、その柱の間及び屋根をスレートで覆つただけの仮設工作物にすぎず、建築確認申請すらされていない。本件建物があるからといつて、本件土地賃貸借が長期のものになるようなものではない。

また、被告側では、原告の営業開始に協力したが、これも好意に出たものにすぎず、本件土地賃貸借が一時使用目的のものであることを否定する事情となるようなものではない。

(5) 昭和五三年に被告が即決和解を求めたのは、賃貸期限経過時に原告の本件土地明渡の履行に不安があつたからであり、賃貸期間を三年としたのは、その間に日置製作所の操業の再開または被告側の自己使用に必要な目途が立つと予測されたからであり、このときにも本件土地賃貸借が一時使用目的のものであることになんらの変更も加えていない。原告は、右即決和解の効力について児玉から説明をうけて承知していたが、これにまつたく異議をのべていない。

(6) 昭和五八年三月の請求原因1掲記の即決和解は、被告が賃貸の継続を拒否したのに、原告が賃貸の継続を懇請したため、被告においてやむなくこれに応じたものである。原告は、代理人である木村弁護士に対し、三年間本件土地を使用できれば他に移転する旨をのべ、かつ三年の賃貸期間についてはまつたく異議をのべず、ただ右期間経過時になお賃貸の更新を希望するものの、もつぱら被告の意思にかかることであることを承知して、和解をしたものである。そして、右和解において、明渡請求の予告期間が原被告の交渉の結果被告の望む三か月から六か月に変更(延長)された。これらのことから、原告が三年の期間満了と六か月前の被告からの予告によつて本件土地を当然明渡す義務を負うことを承知し、容認していたことが明らかである。

原告と同時に木村弁護士を代理人として右即決和解に加わつた四八番一の土地賃借人の外田栄次郎、長門千恵松は、約定期間満了時に他に移転し、外田はそのさい本件建物とほぼ同様の建物を自己の費用で収去している。原告のみが、右和解による明白な約定を無視して本件土地を占拠しつづけているのである。

(7) 本件土地賃料は、当初から終始きわめて低廉であり、現在の月額七万七〇〇〇円という額は、通常の賃貸借の場合の適正賃料の三分の一程度以下にすぎず、かつ被告は当初から権利金、保証金等を一切徴していない。これだけみても、本件土地賃貸借が一時使用目的のものであることが明白である。

第三  証拠〈省略〉

理由

一請求原因1の事実(即決和解の成立と和解調書の存在、和解中の明渡予告条項に基づく被告の原告に対する本件土地明渡請求)は、当事者間に争いがない。

二〈証拠〉によれば、右請求原因1掲記の即決和解においては、賃貸期間満了により本件土地賃貸借契約が終了したときは、原告は被告に対して本件建物を収去して本件土地を明渡す旨が合意され、和解調書に明記されていることが認められ、これに反する証拠はない。

三右即決和解において約された本件土地賃貸借契約が一時使用を目的としたものであるかどうかについて、以下検討する。

原被告間で、昭和五〇年一〇月一三日、本件土地につき、自動車修理作業場兼自動車置場として使用する目的で、賃料月額五万円、賃貸期間同年一一月一日から一年間、ただし更新することがある、旨の約による賃貸借契約が締結されたこと、右契約が原告から被告に「土地一時使用願」と題する書面を差入れる形式で締結されたこと、本件土地を含む苅田二丁目四八番一の土地を被告が取締役、長男日置功が代表取締役である日置製作所がかねて使用してきたこと、時期は別として日置製作所が業績不振となつて操業を停止したこと、原告が昭和五一年二月に本件土地上に本件建物を建築し、被告がこれに了解を与えたこと、内容はともかくとして原告の営業開始につき被告側が協力したこと、昭和五一年と同五二年の各一〇月三一日付で原告から被告に対して土地一時使用願と同内容の念書が差入れられたこと、昭和五三年一二月一八日に原被告間に原告の代理人を布施裕弁護士として第一回目の即決和解が成立し、その和解中に本件土地賃貸借の期間を同年一一月一日から三年とし、一時使用の賃貸借であることを確認する条項が含まれていること、右三年の期間満了後も賃貸借が継続したこと、昭和五六年一一月一日以降賃料が増額されたこと、その後昭和五七年一一月ごろの被告側からの求めにより第二回目の請求原因1掲記の即決和解をすることになつたこと、原告が他の四八番一の土地の賃借人とともに木村弁護士を代理人として委任し、同弁護士の関与のもとに本件土地を含む右土地賃貸借を各期間三年、一時使用目的のものとする即決和解が成立したこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

右各争いのない事実と、〈証拠〉を合わせると、次の事実が認められる。

1  本件土地は、軽量鉄骨製造業を営む日置製作所が昭和四〇年ごろから昭和四三年ごろまで事業用地として使用してきたが、昭和四三年六月に日置製作所が解散して使用を中止し、その後は、本件土地を含む四八番一の土地の一部を高千穂建設産業株式会社、さらに奥井レツカーという会社が、いずれも一時使用を目的として被告から賃借し、各二年程度ずつ駐車場としてこれを使用して明渡し、その後被告の次男日置勝が自己の自転車部品組立業の営業のために一時これを使用したほかは、被告においてこれを空地のままにしていた。

被告は、日置製作所の事業再開を企図し、それが不可能でもガレーヂないしマンションの建築など、具体化はしていなかつたものの、あくまでも本件土地を含む四八番一の土地を自己使用する計画をもちつづけ、したがつて、第三者に長期にわたつて賃貸する意思はなかつた。昭和五〇年一〇月、原告、長門千恵松、外田栄次郎から自動車修理業、自動車整備業の営業のために右土地の賃貸を求められたさいも、被告は、長男の功、及び被告の側に立つて右土地賃貸を仲介した花里不動産こと児玉輝夫らと協議し、一時使用を目的とし、賃貸期間は一年とし、土地使用目的は建物所有とすることを避けて自動車置場とし、ただし賃借人において被告の承諾のもとに仮設物その他造作物を設置することは認めるものの、土地明渡のさい賃借人の費用で撤去する、などの条件によつて賃貸することにした。児玉は、原告らに右賃貸条件を十分説明し、原告らもこれを承諾し、右各条件等を明記した「土地一時使用願」によつて本件土地を含む右土地を賃借した。

被告は、右賃貸が一時使用目的のものであるため、権利金、保証金等の一時金は、これを一切徴しなかつた。

その後、昭和五一年一〇月末日及び昭和五二年一〇月末日に約定の各一年の期間を経過して賃貸借を更新するつど、被告は、児玉を通じて原告らから土地一時使用願と同旨の念書を徴し、原告らも、念書を被告に差入れることによつて、更新された賃貸借が一時使用目的で、期間一年のものであることを確認した。

2  遡つて、原告は、昭和五一年二月に本件土地上に本件建物を建築したが、本件建物は、鉄骨の支柱をコンクリート敷の土間に埋め込み、柱と柱との間にスレートの壁をはめ、全体をスレート葺の屋根で覆つた程度のものであつて、原告は本件建物建築につき建築確認申請もしていない。被告は、本件建物の建築を了承したが、原告から、本件建物の接合部はボルト締めにして容易に解体しやすいものとする旨の説明をうけて、仮設物の建築であると理解して、これを了承したものである。原告は、のちに本件建物について所有権の登記をしようとしたが、被告は、敷地(本件土地)所有者としてこれに承諾を与えることを拒んだ。

また、原告は、昭和五一年六月に大阪陸運局から、本件土地建物で自動車分解整備事業(普通自動車分解整備事業、小型自動車分解整備事業)を行うことにつき認証をうけているところ、原告が右認証をうけるために必要な近隣の同意を得ることについて被告ないし次男勝の妻が原告に協力しているが、本件土地賃貸人としての好意に出たものにとどまる。

被告側が原告の本件建物建築を了承し、かつ原告の営業に協力したからといつて、原告がその営業のために本件土地を永続的に使用することを承諾したことになるものではない。その後も、一時使用目的で、期間一年の賃貸借であることを明記した前記念書を、原告は、二回にわたつて被告に差入れており、賃貸借の性質が賃貸当初と変わるものではないことを原告も了承していた。

3  昭和五三年一二月、被告は、児玉と協議し、将来一時使用の点に関して紛争が生じないようにし、かつ期間満了時の明渡を確実なものにしたいと考え、かつ別に賃料増額を求めたことから、即決和解によつて賃貸条件を改めて確定しようとし、その旨を原告、外田、長門に申し入れた。原告らは、これを了承し、児玉のあつせんによつて布施裕弁護士を代理人として委任し、同弁護士によつて和解を成立させた。和解に先立ち、本件土地については、原告は、児玉から、一同使用目的、期間は昭和五三年一一月一日から三年、本件土地を自動車修理業の作業場兼自動車置場として使用する、期間満了時に本件土地を明渡す、などの条件で和解を成立させたい旨の説明をうけた。原告は、期間満了時に明渡義務を負うことを理解したが、賃貸期間が従来の一年から三年に延長されたことと、これまでの経過から期間満了時にさらに賃貸借を更新されることもあると考えて、被告側の申入れを承諾した。なお、別途協議のうえ、賃料についても月額六万円に増額する合意が成立し、これも和解の対象とされた。原告は、和解成立後に和解調書正本を受領し、児玉の説明した明渡約定を含む賃借条件が記載されていることを了承したが、和解の効力を問題にするようなことは一切なかつた。

4  右和解における賃貸期間の満了した昭和五六年一〇年末日を経過したのち、被告の長男功が被告を代理して原告、外田、長門に対して賃貸期間を一年に限つて延長し、期間満了と同時に明渡すことを求めたが、原告らはさらに賃貸を継続することを求め、結局再度即決和解によつて問題を解決することとした。別にこのときも賃貸借を継続するとすれば賃料を増額することが問題となり、これもあわせて協議することとなつた。そこで、原告らが代理人として委任した木村吉治弁護士と被告が代理人として委任した梅本弘弁護士との間でかなりの期間にわたつて両者の希望を突き合わせて調整し、一時使用目的、賃貸期間は昭和五六年一一月一日から三年間、ただし、更新することもあることを認める、被告が賃貸を継続しないときは期間満了の六か月前までに原告らにその旨を通知(予告)する、期間満了により賃貸借が終了したときは原告らにおいて各賃借土地部分を地上物件を収去して明渡す、などの約による和解が成立し、なお同時に右和解において、賃料増額の点についても、本件土地については昭和五六年一一月一日から昭和五七年一二月末日まで月額七万二〇〇〇円、昭和五八年一月一日から月額七万七〇〇〇円とする合意が成立した。右各条項のうち賃貸借更新条項及び明渡予告期間を六か月とした条項(被告は三か月を希望)は、木村弁護士が原告らのできるだけ継続して賃借したいとの希望を徴して被告側と協議して和解内容に加えることにつき被告側の同意を得たものではあるが、同時に、同弁護士は、約定の三年の期間満了時に明渡が現実化することを予測し、原告らに対し、賃貸借を継続できるかどうかはもつぱら被告の意思にかかることであり、被告が明渡を請求する以上、原告らにおいて明渡をしなければならない旨を説明し、原告らも、これをやむをえないものと了承し、これに異議をのべることはなかつた。

被告は、本件土地を含む四八番一の土地において、モータープールの営業をする計画がかなり具体化したこともあつて、右明渡予告条項にしたがい、右期間満了の六か月以上前に原告らに対して期間満了時に明渡すべきことを請求した。

外田、長門は、期間満了時に賃借土地部分を明渡し、かつ外田は、本件建物と類似の建築物を収去した。

6  (原告は、被告が原告に対して明渡を求める意思がなかつた旨を主張するが、)被告は、昭和五三年一〇月の本件土地賃貸開始当初から終始、被告が明渡を求めればいつでも明渡を得られると考えており、現在も、賃貸開始当時の原告の気持にしたがつて素直に明渡してもらいたいと希望している。

以上のとおり認められ〈る。〉

これによれば、被告の原告に対する本件土地賃貸は、その開始当初から終始一時使用を目的としたものであつて、請求原因1掲記の即決和解における賃貸約定においても、一時使用目的のものであることに変わりはない。右即決和解及び前回の昭和五三年における即決和解の全部または一部に原告主張のような無効事由があるとは、右認定事実からはとうていうかがえず、本件全証拠を総合しても、これを認めるには足りない(第一回目の和解について、布施弁護士が原告らと被告の双方を代理して和解を成立させたことは、これを認めうる証拠がない。両和解について、原告らと被告との間に、賃貸借の継続と期間満了時の明渡義務の明確化の点、及び賃料増額幅の点について、若干にせよ食い違いがあつたことが、右認定事実によつて認められ、したがつて和解の前提となる紛争があつたといえる。また、一時使用目的、賃貸期間、その満了時の明渡約定の各条項は、前認定のとおり、原告においてその内容を承知し、事後的にもなんら異議をのべていないのであつて、これら条項を無効とする事由はとうてい認められない。)。さらに、被告が借地法を脱法する意思で実際は通常の長期賃貸借であるのに一時使用目的の形式によつて賃貸したとの点も、これを認めるに足りる証拠はなく、右認定事実によれば、被告にそうした脱法の意思はなかつたことが認められる。

四そうすると、請求原因1掲記の即決和解において約された本件土地賃貸借に借地法の適用はなく、被告の同和解に基づく前記明渡請求(予告)と約定の賃貸期間の満了により、右賃貸借契約は昭和五九年一〇月三一日限り終了し、原告は被告に対して右和解所定の本件建物収去本件土地明渡義務を負うことが明らかである。

したがつて、右即決和解の和解調書に基づく強制執行の不許を求める原告の本訴請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、執行停止決定取消とその仮執行宣言につき民事執行法三七条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官岨野悌介)

別紙物件目録(一)

大阪市住吉区苅田二丁目四八番の一

宅地 一〇四二・三二平方メートルのうち、別紙図面赤線で囲まれた部分一七一・一平方メートル

図面〈省略〉

物件目録(二)

物件目録(一)記載の土地上に存する

鉄骨亜鉛葺平家建工場

床面積 一四二・二八平方メートル

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